訪問介護を立ち上げようとする経営者から、私が最も多く聞く相談は「サービス提供責任者(サ責)が確保できない」というものです。求人媒体を出しても応募が来ない。来ても要件を満たさない。要件を満たしても、すぐ辞めてしまう。
私自身、2020年に訪問介護事業を3人で立ち上げた当初、まったく同じことに頭を抱えていました。ある時から、私は問題の立て方を変えました。外から探すのをやめ、入口で見極めて、内で育てることに集中したのです。
「サ責が採用できない」の本当の正体
訪問介護のサ責は、市場でほぼ常に売り手市場です。サ責になれる要件(介護福祉士または実務者研修修了+実務経験3年以上)を満たし、かつ「サ責というポジションを引き受ける気がある」人材は、業界全体で慢性的に不足しています。
その状況で、開業直前の事業所が求人媒体に「サービス提供責任者募集」と出したところで、応募者の質と量はほぼコントロールできません。つまり、サ責を「外から即戦力で採る」戦略は、構造的に分が悪いのです。
私が辿り着いた結論:サ責は採用するものではなく、設計するものだ。
問題の立て方を変える:外から探さず、内で育てる
方針を転換してから、私はヘルパー採用そのものを、「将来のサ責候補を発掘する場」として再設計しました。具体的には、3つの仕組みを作りました。
- 採用時テスト ― 入口で「素質」を見る
- 3つのキャリア軸 ― 全員に同じ道を当てない
- 打診のタイミングと声のかけ方
仕組み①:採用時テストで「素質」を見る
私は採用面接の中に、簡単なテストを組み込みました。資格や経歴ではなく、サ責として伸びるかどうかの素質を見るためのテストです。テストで見ていたのは以下の要素です。
- 介護観の言語化:「なぜ介護の仕事をしているのか」を自分の言葉で語れるか
- 記録能力:短い文章で状況を正確に伝えられるか
- 数字への抵抗感:シフト・稼働率・売上などの数字を見ることに抵抗がないか
- 判断のスピード:ケーススタディにどの順番で動くと答えるか
- チームへの態度:同僚との関わり方をどう捉えているか
ここで重要なのは、「サ責になりたいか」を最初に聞かないことです。私が見たかったのは「なる気があるかどうか」ではなく「素質があるかどうか」でした。
仕組み②:3つのキャリア軸で全員に合った道を提示
入社して3〜6ヶ月の段階で、本人と一対一で話す時間を取り、何を優先したいかを聞きました。返ってくる答えは、大きく3つに分かれました。
軸A:稼ぎたい人のキャリア
「収入を上げたい」と語る人たちには、サ責→管理者→多店舗管理という、責任と給与が連動して上がる道を提示しました。サ責への打診も、この軸の人には最も伝わります。「責任は重くなるが、その分は給与で報いる」と明示できるからです。
軸B:責任ある仕事がしたい人のキャリア
「人の役に立っている実感が欲しい」と語る人たちには、サ責→新人教育担当→育成リーダーというキャリアを提示しました。私の経験では、この軸の人材が最も長く続き、最も組織を強くしました。
軸C:家庭を優先したい人のキャリア
「子供がまだ小さい」「無理せず続けたい」と語る人たちには、サ責の打診はしません。短時間継続のベテランヘルパーとして、特定の利用者を専任で担当してもらう道を提示しました。軸Cの人材は、サ責にはなりませんが、長く辞めないことで事業所の安定基盤になります。
仕組み③:打診のタイミングと声のかけ方
採用時テストで素質ありと判断した人に、サ責を打診するタイミングは入社後6〜12ヶ月を目安にしました。声のかけ方も「サ責になってください」ではなく、「あなたの素質を別のかたちで使うことを考えているのですが、興味はありますか」から入ります。
⚠️ 無理に説得して上がってきたサ責は、責任の重さに耐えられず、現場のヘルパーまで一緒に辞めていきます。私は開業初期に一度それを経験し、二度と繰り返さないと決めました。
結果として何が変わったか
この仕組みを回し始めて、変わったことが3つあります。求人広告費が下がりました。サ責を外部から即戦力募集する必要がなくなったからです。早期離職が減りました。3軸キャリアを最初に提示することで、自分の希望と会社の方向が一致しているという安心感が生まれました。サ責の質が上がりました。内部から育てたサ責は、現場の感覚と利用者の顔を知っています。この差はサービス品質に直結し、ケアマネジャーからの依頼の質と量にも返ってきました。
採用は、入口から出口まで一本の設計です。求人原稿を一行書く前に、まず「うちの事業所の3軸キャリア」を経営者自身が言語化することが、本当のスタートラインです。
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